飲食店のM&Aでよくある失敗と法的な注意点
後継者不足や事業の選択と集中を背景に、飲食店のM&Aは年々身近な選択肢になっています。
一方で、許認可や店舗の契約、従業員の引き継ぎでつまずき、買収後に想定外の負担を抱える失敗例も少なくありません。
本記事では、飲食店のM&Aで失敗しないためのポイントについて説明します。
スキームの違いが引き継ぐ範囲を決める
まず、M&Aの方式によって引き継がれる権利義務が変わることを押さえましょう。
株式譲渡と事業譲渡では承継の仕組みが異なる
株式譲渡は、会社の株式を買い手へ移転させる方式で、会社が持つ契約や許認可、負債は原則としてそのまま引き継がれます。
手続きが比較的簡単な反面、把握していなかった債務まで丸ごと承継してしまうリスクを伴う点が特徴です。
一方、事業譲渡は店舗の資産や契約を個別に選んで移転させる方式で、引き継ぐ範囲を絞れる代わりに、契約ごとの移転手続きや相手方の同意が必要になります。
個人経営の飲食店の売買では、事業譲渡の方式が採られることが一般的です。
どちらの方式を選ぶかによって税務や許認可の扱いも変わるため、目的に応じた方式の選択がM&Aの出発点になります。
小規模な取引でも調査を省略しない
飲食店のM&Aは取引金額が小さいことも多く、費用を理由にデューデリジェンスが省略されがちです。
しかし、飲食業では未払いの残業代や社会保険料、厨房機器のリース債務が帳簿から見えにくく、買収後に発覚する例が目立ちます。
調査で確認しておきたい項目の例は次のとおりです。
- 従業員の労働時間の管理状況と残業代の支払い実績
- 厨房機器や設備のリース契約と所有関係
- 衛生管理の記録や行政指導の履歴
取引の規模に応じて範囲を絞ってでも、法務と財務の確認を行うことが失敗の予防につながります。
売り手にとっても、こうした資料を事前に整理しておくことが、交渉を有利に進める材料になるでしょう。
許認可と店舗契約の引き継ぎに注意する
飲食店のM&Aで特につまずきやすいのが、許認可と店舗の契約です。
営業許可や届出の承継手続きを確認する
飲食店営業の許可については、2023年12月施行の食品衛生法改正により、事業の全部を譲渡する場合には、保健所への地位承継届の提出で営業者の地位を引き継げるようになりました。
改正前のように許可を取り直して営業を止める必要がなくなり、円滑な引き継ぎが可能です。
ただし、この扱いは営業の全部譲渡に限られ、店舗の一部だけを譲渡する場合や設備を変更する場合には、新規の許可申請が必要になります。
地位承継届には譲渡契約書その他の譲渡の事実を証する書類の添付が必要となるため、契約書の作成段階から承継手続きを見据えておくことが大切です。
また、深夜に酒類を提供する店舗の届出は承継できず、事業譲渡では買い手による新たな届出が求められるため、営業スケジュールへの影響を確認しておきましょう。
店舗の賃貸借契約は貸主の承諾が前提になる
事業譲渡で店舗を引き継ぐには、賃借権の譲渡または転貸について貸主の承諾が必要です。
民法612条により、無断で賃借権を譲渡すると契約を解除される原因となるため、承諾を得ないままの引き継ぎは大きなリスクを伴います。
承諾の条件として、承諾料や敷金の積み増しを求められることも珍しくありません。
居抜きでの引き継ぎを予定している場合には、内装や造作の所有関係と原状回復義務の範囲もあわせて確認しておくと安心です。
株式譲渡の場合でも、経営者の変更時に貸主への通知や承諾を求める条項が契約に置かれていることがあるため、契約書の確認は必須といえます。
人の引き継ぎと契約への落とし込み
最後に、従業員の承継と契約書での手当てを確認します。
従業員の雇用引き継ぎには個別の同意が必要
事業譲渡では、従業員の雇用契約は自動的には移転せず、一人ひとりの同意を得て買い手との契約を結び直す必要があります。
飲食店の価値は料理人や店長の腕に支えられていることが多く、中心となる人材が引き継ぎを拒めば、買収の前提が崩れかねません。
労働条件を引き下げれば同意を得にくくなるため、処遇の設計と丁寧な説明が重要です。
株式譲渡であれば雇用契約は会社に残ったまま維持されますが、経営方針の変化による離職を防ぐ配慮は同じように求められます。
主要な従業員の残留を取引実行の条件とする方法も、実務ではよく用いられます。
発見したリスクは契約条項で手当てする
調査で判明したリスクは、最終契約の条項に反映させて備えます。
売り手に未払いの債務や法令違反がないことを表明保証させ、違反があった場合の補償を定めておくのが基本形です。
残業代の未払いのように金額を見積もれるリスクについては、譲渡価格から差し引く形で調整する方法もあります。
また、事業譲渡では会社法21条により、譲渡人は特約がない限り同一の市区町村と隣接する市区町村の区域内で20年間、同じ事業を行えないと定められています。
もっとも、この法定の範囲は必ずしも十分とはいえないため、売り手側の料理人や店主が近隣で同業を開業することを防ぎたい場合には、契約書に競業避止義務を個別に定めておくことが望ましいでしょう。
契約書のひな形をそのまま流用すると飲食店特有のリスクが漏れやすいため、弁護士の関与のもとで条項を設計することが大切です。
まとめ
飲食店のM&Aでは、スキームの選択、営業許可と店舗契約の引き継ぎ、従業員の同意、契約条項での手当てが失敗を防ぐ鍵となる要素です。
MSみなと総合法律事務所では、飲食店のM&Aや事業承継に関するご相談を承っております。
飲食店の買収や売却をご検討の方は、まずはお気軽にご相談ください。