IT企業のM&Aで知的財産権はどう確認する?法的対応のポイント
IT企業のM&Aでは、ソフトウェアや技術情報をはじめとする知的財産が企業価値の中心を占めます。
権利関係の確認が不十分なまま買収を進めると、想定していた価値を得られないばかりか、買収後に紛争へ巻き込まれるおそれも否定できません。
本記事では、IT企業のM&Aにおける知的財産権の確認と法的対応について説明します。
IT企業のM&Aで知的財産権の確認が重要な理由
はじめに、知的財産権の調査がM&Aの成否を左右する理由を確認します。
企業価値の中心が無形資産にある
IT企業の価値は、工場や設備よりも、ソフトウェアの著作権、特許、商標、営業秘密、顧客データという無形の資産に支えられています。
買収価格の算定も、これらの知的財産が生み出す将来の収益を前提に行われるのが通常です。
そのため、対象となる権利が本当に対象会社へ帰属しているか、第三者の権利を侵害していないかの確認が、M&Aの出発点になります。
権利関係の不備は買収後のリスクに直結する
知的財産の権利関係に不備があると、買収後にさまざまな問題が表面化します。
中核システムの著作権が外部の開発会社に残っていた場合、システムの改修や再利用に相手方の許諾が必要となり、事業計画に支障が生じかねません。
また、第三者の特許権を侵害していたことが後から判明すれば、差止めや損害賠償の請求を受けるリスクを買い手が抱え込むことになります。
こうした事態を避けるために行われるのが、知的財産に関するデューデリジェンスです。
デューデリジェンスで確認すべきポイント
IT企業の知的財産デューデリジェンスでは、特に次の3点が重要になります。
ソースコードの著作権の帰属を確認する
最も基本となるのは、事業の核であるソースコードの著作権が対象会社に帰属しているかの確認です。
従業員が職務上作成したプログラムの著作権は、就業規則や雇用契約に別段の定めがない限り会社に帰属します。
一方、外部の開発会社やフリーランスのエンジニアに開発を委託していた場合、契約書に権利移転の定めがなければ、著作権は受託者側に残っているのが原則です。
権利移転の条項があっても、著作権法61条2項により、翻案権等(27条)と二次的著作物の利用権(28条)が譲渡対象として明記されていなければ、これらの権利は譲渡人に留保されたものと推定される点に注意が必要です。
留保されたままだと、買収後にシステムを改修する際、元の受託者の許諾が必要になりかねません。
過去の開発体制をさかのぼり、委託契約書に27条・28条を含めた譲渡の明記があるかを丁寧に確かめましょう。
オープンソースソフトウェアの利用状況を調べる
自社製品にオープンソースソフトウェアを組み込んでいるIT企業は少なくありません。
利用しているライセンスの種類によっては、製品のソースコードの開示を求められる条件が付いていることがあります。
条件に違反した状態で製品を提供していると、ライセンス違反を理由とする請求や、公開を前提としない技術情報の流出につながるおそれも否定できません。
デューデリジェンスでは、組み込まれているオープンソースの一覧とライセンス条件を整理し、義務への対応状況を検証します。
ライセンス契約の承継可否を確認する
対象会社が第三者からソフトウェアや技術のライセンスを受けている場合、その契約がM&A後も維持できるかの確認が欠かせません。
ライセンス契約には、経営権の移動があった場合に相手方の承諾を必要とし、あるいは契約を解除できるとするチェンジオブコントロール条項が置かれていることがあります。
株式譲渡の方式でも、この条項があれば重要な契約を失うリスクがあるため、事前の洗い出しと相手方への対応方針の検討が必要です。
事業譲渡の方式を採る場合には、契約の移転自体に相手方の同意が求められる点も踏まえて計画を立てます。
リスクが見つかった場合の法的対応
調査でリスクが判明したときは、契約と実務の両面で手当てを行います。
契約条項でリスクを分配する
発見されたリスクの程度に応じて、最終契約の条件に反映させるのが基本的な対応です。
主な方法には、次のようなものがあります。
- 知的財産の帰属や非侵害に関する表明保証条項を置く
- 違反が判明した場合の補償条項を定める
- リスクの大きさを踏まえて買収価格を調整する
表明保証は万能ではなく、売り手の資力によっては補償を回収できないこともあるため、リスクの重大性に応じて取引の中止も含めた判断が求められます。
クロージングまでに権利関係を整備する
契約条項による手当てとあわせて、取引の実行までに権利関係そのものを是正する対応も検討します。
外部の開発会社に著作権が残っていた場合には、権利の譲渡契約を締結して対象会社へ帰属させておくことが典型例です。
チェンジオブコントロール条項のある契約については、事前に相手方から承諾を取得します。
売り手側にとっても、知的財産の棚卸しと契約書の整備を早めに進めておくことが、円滑な売却と適正な企業価値の評価につながるでしょう。
まとめ
IT企業のM&Aでは、ソースコードの帰属、オープンソースの利用状況、ライセンス契約の承継可否を柱とする知的財産の調査と、その結果を踏まえた契約面の手当てが欠かせません。
MSみなと総合法律事務所では、IT企業のM&Aや知的財産に関するご相談を承っております
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